卸売市場×Eコマース×新シルクロード 義烏発展史
巷で噂の義烏
「義烏」日本でこの地名を知っている方はあまりいないと思います。一般的な知名度は低い地名なのですが、中国ビジネス、特に生活雑貨などの卸売りに携わっている方なら聞いた事あると思います。世界最大規模の生活雑貨の市場があり、さらにその国際性から新シルクロードの出発点とされている場所です。
筆者撮影
では、なぜ知名度がそんなに高くない地味な都市なのに、近年、発展し注目を浴びているのか?そのポテンシャルや発展史をまとめてみたいと思います。
義烏発展史 民間主導の改革開放
神戸大学経済経営研究所の約二年前のVTRに義烏の発展史が分かりやすく纏まっていました。このVTRによると計画経済の下でも義烏では闇市的なモノが運営されていました。そこから改革開放によって本格的に発展を始めました。
この義烏が位置する浙江省は杭州や温州、寧波などがあり、どうやら元々商売人気質が強い土地で積極的に外に出ようとする人たちである事が言えそうです、浙江省温州は「中国のエルサレム」などと言われています。
もちろん、中国最大の都市の上海からそこまで遠くないというのもポイントだと思います。最近では地域間の経済の結びつき「長江経済ベルト」開発計画の恩恵などもあります。
しかし、これだけではいずれは発展が終わります。VTRでも指摘されていますが、この手のビジネスはいずれコモディティー化し持続可能性に難がある弱点があります。
義烏全体を構造として捉える
しかし、ここにインターネットや新シルクロードを加えることで新たなる可能性が見えてきます。義烏やそれらの周辺地域には越境Eコマースの基地や巨大倉庫、保税区が設置され、越境Eコマースを使える人材を教育するような施設もあります。
http://jtj.yw.gov.cn/jrjt/gzdt/201605/t20160526_946843.html
菜鸟产业园 是个什么园
www.jhnews.com.cn/2017/0404/750678.shtml
义乌市创客电子商务培训中心
义乌市创客电子商务培训学校作为义乌新型创意型培训机构
http://zj.studyems.com/s0031146173/
これにより、インターネットを融合させて発展する義烏市はただの伝統的な卸売り市場というポジションだけでなく、日用雑貨をあらゆるにも届けられるような機能を持ちます。義烏という町そのものが日用雑貨を供給する巨大公共インフラに変わりつつあると言えそうです。さらにそこに「一帯一路」も加わるわけです。最近ではアフリカや中東のイスラム商人も義烏にあつまり、それに伴い中国のムスリムもあつまり、かなり独特な街の様子にもなっているようです。
参考文献
中国における地域間連携の発展のあり方
http://www.nri.com/~/media/PDF/jp/opinion/teiki/chitekishisan/cs201503/cs20150303.pdf
義烏市内マップ
http://yiwupassport.co.jp/files/yiwu_map.pdf
第47回研究会報告 - 現代中東イスラーム世界・フィールド研究会
慣れるな!舐めるな!中国・アフリカ関係プロパガンダを読み解く
色々とヤラかしている一方で
この間の中国の紅白でブラックフェイスが見られ炎上したのは記憶に新しいと思います。このブログでも取り上げました。
しかし、だからと言って中国・アフリカの外交戦略や中ア関係の広報戦略を過小評価すると、また色々と痛い目を見るでしょう。事実として中ア関係は終戦直後から脈々と続いてきています。そこで本稿では、中ア関係のコンテンツを分析し、中ア関係が持つポテンシャルを少し掘り下げ、理解してみようと思います。
西側へのカウンター
少し、前ですがこういうVTRが流れました。
ソマリアから来た女性博士が中国語で「中国のアフリカ援助は植民地主義ではない」という事を語っている内容です。インタビュー後半では「確かに一部の中国企業のやり方には問題もある」と語っているのですが、主な内容は「中国はアフリカの発展に貢献している」というモノです。
確かに、このVTR、BBCのインタビューへの回答という事で中国政府のプロパガンダ色が極力抑えられてはいますが、このインタビューに答えている女性は、BBCのみならなず、中国国内のコンテンツで最近よく見かけます。
この事からも、こちらの女性が「普通のソマリア人の中国通」ではないことが分かると思います。中国情勢を長く観察している日本人の中には「加藤嘉一」の存在が過ったのではないでしょうか?
この女性の正体は?
ほかにもこのようなVTRがありました。
女性の中国名は【和丹】というそうです。この名前で百度で検索してみますと面白い事が分かりました。
来自索马里的美女和丹:这个浙大博士有点酷 - 杭州新闻中心 - 杭州网
この記事ではこの女性が習近平を賛美する様子が伝えられ、また記事中によると、浙江師範大学アフリカ研究院の研究者である記述があります。この浙江師範大学のアフリカ研究院 http://ias.zjnu.cn/
ホームページのヘッダー部分を見てみますと、中国の対アフリカ政策の重要なシンクタンクになっている事が窺えると思います。
今後、同様に西側へのカウンターとしてこのような人材がメディアに出てくる多々観察されるでしょう。以上の例でもあげましたが、これらは「でっち挙げ」というより企業の製品広報に近いモノを感じます。
日本には「加藤喜一」という前例がいるのでそう簡単にこの手の戦略にノルとは思いませんが、反米傾向が強い諸外国などには効果が高いと思います。
色々と黒人差別でヤラかしているといって、外交手腕や政策広報を過小評価すると大きなしっぺ返しを食らうでしょう
中ア関係を探る参考資料
本書の中にも中国の対アフリカアプローチの一例の記載あり。
結局中国のありゃりゃ?な部分が露呈した春晩ー中ア関係コントの表象分析
やらかしました
中国の紅白と称される春晩(春節聯迎晩会)で中ア関係のプロパガンダコントで、ブラックフェイスをやらかしてしまいました。
春晩(中国版紅白)で登場したブラックフェイスが問題に。反論する中国人の反応が、日本で「差別じゃない」「米国の価値観押し付けるな」と言っていた人達と同じでウケる。内容もひどいが(アフリカの人は中国大好き!みたいな)、考えてみたら、これも日本で「世界の人は日本大好き!」番組あるよなと。 https://t.co/EMWfZs1POR
— Hiroko Maeda (@hongzi99) 2018年2月16日
しかし、このコントブラックフェイス以外にも残念なポイントがあります。今回の記事では、なぜ中ア関係のコントが春晩で流れたのか?などなど背景にある事情を解説しながら残念ポイントを指摘したいと思います。
中国・アフリカ友好ではなく、
中国が作ったモンバサ、ケニヤ鉄道スゴイ
問題のコントは4分38秒あたりから
このコントの背景を理解するためには以下のニュースが頭に入っている必要があります。
現在、中国はインフラ輸出を盛んに行っています。こちらはその一環です。このコントでアフリカ女性がCAのような恰好をし、コントの背景に鉄道があるのはそういう事です。
そもそも専門家皆無のトホホな演出
このコント、冒頭にどういった団体がパフォーマンスをするのか表示されているのですが、この集団を見ると、中ア関係の専門家や文化人類学の集団が全くいないことが分かります。ほとんがただのダンスパフォーマンスグループです。極めつけは赤字で示した一番したの集団。
- 蒙内铁路乘务组
- Zaouly面具舞团
- 帕玛佳非洲歌舞团
- A&C非洲歌舞团
- 中国煤矿文工团艺术学校
この集団は、国家安全生産監督管理局直属の組織で、1947年に東北地方の石炭発掘区で生まれた組織です。たしかに、中国の中でも由緒ある芸術・武芸学校なのですが、なぜこのナイロビ・モンバザ鉄道コントに呼ばれたのか理解しがたいです。
結局は西側のソフトパワーに頼る
このコントの主な内容はとにかく、「中国スゴイ!」「中国の援助はアフリカを発展んさせた!」という内容なのです。しかし、このコントの冒頭や最後に流れたテーマソングWaka Waka (This Time for Africa)は、シャキーラというコロンビアの歌手が歌った歌で、2010年の南アフリカワールドカップの時のテーマソングです(おそらく、使用許可をとっているとは思いますが少しだけ心配です)。
※歌そのものはアフリカへのリスペクトとサッカーの疾走感が合わさった大変よい曲です
「中国スゴイ!」「中ア友好!」というプロパガンダの最初と最後に全く的外れなテーマソングを持ってくるあたり、あの国のソフトパワーの乏しさと詰めの甘さを感じます。
一帯一路を拒む香港、乗る香港
香港でも注目されている一帯一路
中国政府が推し進め、習近平政権の目玉政策の一つ「一帯一路」。「海上シルクロード」の通り道には香港が存在しています。香港と中国は対立関係にありますが、香港にも香港の諸事情があり背に腹は代えられない状況もあります。それについては以下のブログを参考にしてください。
こうした事情もあるので、香港でも「一帯一路」に乘るか?乗らないか?香港にとっての挑戦と機会は何か?といった研究や話題は多いです。
以下の資料は香港貿易発展局経費研究部が発表した資料です。
http://media.hkprinters.org/HKPM-104/HKPM104-Top2.pdf
貿易発展局、「一帯一路」委員会を設置【香港―経済】 – 香港ポスト | 香港日本語新聞
一帯一路に乘ろうとする香港
以下のVTRは香港が一帯一路に参加する際に発揮できる優位性について知れるVTRです。
このVTRでは香港の地下鉄の運用実績を生かし中央アジアやマレーシアなどの交通系大学と提携する様子や、様々な学術交流する様子が紹介されていたりしています。また、一帯一路は様々な国をまたがって商売する事から、英米法や大陸法、イスラム法の法知識が必要となります。香港の歴史から来る経験が生かせる事なども紹介されています。
ここからは、邪推の域を出ませんが少しだけ未来予測をしたいと思います。
一帯一路計画は中央政府のそして習近平政権の目玉政策です。そして、この政策は国外と国内を繋ぐ性質から、辺境地域や地方の協力なしでは成功しません。そのため、香港を含めた辺境地域に様々な圧力が中央政府から掛かり続けることになると思います。しかも、それは習近平政権の終了、少なくとも2025年までは続く事でしょう。
香港の政治面における自主性や言論の自由の戦いを考える上でも「一帯一路」への香港の参加は一つのカギになると思います。
一帯一路とは”いったい”何なのか② ”いったい”どこから始まる?
広域経済圏
「一帯一路」が中国を中心にした海路と陸路から伸びる広域経済圏構想というのは普段からニュースを見れば分かると思います。しかし、中国のどの都市から始まり、どの都市を通り、それらの都市は”いったい”どういう都市か?と問われて答えられる日本人は少ないと思います。この戦略、別名”21世紀新シルクロード”と呼ばれるので、新疆と西安は通るのか?ぐらいはイメージできますが、広域経済圏構想である一帯一路は西安から一本の道が欧州に向かうだけではないのです。広域経済”圏”構想なのです。
一帯一路は義烏から始まる
中国政府の言い分を聞くと、彼らは浙江省義烏を一帯一路のスタート地点としています。
ここから、スペインまで鉄道が通っています。この義烏、世界一の雑貨や玩具の市場で、この市場の支部はウルムチにも存在しています。
成長のエンジンは沿海部から内陸へ
習近平政権以降、中国経済成長は鈍化しましたが、省ごとの統計を見ると、内陸では依然と高い成長率を維持している省があります。また、ここ数年は中国の沿海部と内陸の格差が着実に縮まっている傾向もあります。中国国内に限ってみれば、一帯一路はそこそこ成功していると言えると思います。
参考文献
以下の記事も参考に。
一帯一路とは”いったい”何なのか①
日本も本格的に一帯一路へ参加しそうです
政府が条件付きで一帯一路への参加を表明した事で、日本国内で一帯一路に関する報道や議論が起こってきていますね。
これらの報道や日本の主流論調を見てみると、否定派・肯定派かかわらず、この「一帯一路」を主に中国の対外進出、覇権獲得として読んでいる印象を受けます。間違ってはいないのですが、非常に表面的で、中国の特性を理解できていないです。
ヌルヌル動くソトとウチ
ー内政課題の克服のための一帯一路
この雑誌の記事で注目するべきは、一帯一路の第一の目的に西部辺境を対外開放の中心に据えるというモノで、西部大開発の延長である事が窺えます。
中国の軍事戦略を専門に研究されている平松茂雄氏は一連の著作で以下のような事を述べています。「中国には国境という概念が古来より希薄」「膨張を繰り返す」「近隣諸外国の民族のほとんどが中国域内で暮らしている」。この事から、中国にとってソトとウチというモノはヌルヌル動き回ることが予想されます。他の日本の中国研究者の方やジャーナリストの著作でも、明確にソトとウチが分かれないのが中国の特徴である事が紹介されています。
以下のVTRでも、一帯一路を推し進める主な理由として、中国国内の過剰生産の解消と新たなる経済成長のエンジンの必要性について言及されています。
AIIB、一帯一路が過剰生産力の調整弁になる事の可能性に関しては以下でも言及されています。
https://www.amazon.co.jp/新・中国2016-習近平体制がまるわかり-日経BPムック-日経ビジネス/dp/4822279480
これらからも、分かる通り、一帯一路を単純に対外拡張・中国の覇権主義といった文脈のみで読み解くのは間違っています。
一帯一路を読み解く
こちらは、中国国内で出版された一帯一路の解説書です。寄稿されている著者を見てみると、ザ・プロパガンダといえる書なのですが、逆に言えば現時点で一帯一路をどのように推し進めるか、一帯一路はどういう位置づけなのか、彼ら自身が国内向けの市場でどのようにアピールしているかを読み解くための優良な資料です。
本書の中でも、一帯一路が対外開放戦略だけではなく、ニューノーマルに入った中国経済の飛躍のための手段であること、中国にとってのエネルギーの安全保障であること国内の経済ベルトと対外ベルトの接続などについて言及されています。また特に本書で興味深いのは、一帯一路の潜在リスクとして全盛期の日本が反面教師として挙げられている点があると思います。
一帯一路は様々な分野が相互に影響しあう総合的な戦略です。中国の国内情勢の不安定要因(共産党の権力闘争、少子高齢化など)によって今後も定義や動きに変化がある可能性は十分にあります。特に北朝鮮情勢の動きによって場合によっては、アメリカが一帯一路、AIIBに参加する可能性も捨てきれません。
今後とも、中国の内部要因と外部要因の両方の面でチェックが必要です。
一帯一路の別の可能性については以下の諸記事を参照に。
キャッシュレス社会について考えてみた その① そもそも”オカネ”ってなんで”オカネ”なの
最近、「中国のキャッシュレス化社会論」が熱いですが
最近、中国で進む「キャッシュレス社会」についての記事がよく見られます。
一方でこうした記事は「事実を誇張しすぎている」という声もあります。
ここで一端、「キャッシュレス社会」は何をもたらすか、そもそもサイバー通貨や通貨のデシタルコード化の何が革新的か纏めていきたいと思います。
そもそも「現金」はなぜ”おかね”として働くか
お金は私たちの生活には無くてはならないモノです。しかし、その”お金”の価値はとても抽象的なモノで支えられています。それは”信用”です。お金は金属だから価値があるわけでもなく、高品質な紙だからでもありません。国の銀行がその価値を与え、我々がその価値を信じているから働くのです。逆に国がその価値を与えず、国の価値観を信用していなくても、人々がその価値を信用し、見いだせれば貨幣は流通し経済を回します。
例えば、和同開珎はまさに国が価値を保障しようと努力しても、人々に流通しなかった通貨です。また12世紀から13世紀にかけて、日本は中国の通貨を輸入して使います。16世紀まで日本では「宋」と「明」の通貨が一緒に使われていたそうです。
VTR冒頭部、3分30秒あたりからその説明があります。
電脳空間の”オカネ”
通貨は”信用”で運用されると書きましたが、それは電脳空間でも同じです。今までは電脳空間で信用を保障する仕組みが確立されていませんでした。しかし、昨今の技術革新によって信用を保障する事が出来るようになりました。電脳空間の通貨や、サイバー空間での金融取引はこうした背景から生まれ運用されています。
しかし、”電脳空間のおカネ”と”現実世界のおカネ”には大きな違いがあります。それは中央の権力の強弱です。基本的にこの世に出回っている”お金”は国の中央銀行が発行し、国の権威がその権威の信頼によって価値を保障し民衆が信じています。一方で”電脳空間のおカネ”は、国がすべてを管理するわけではありません。分散型台帳システムや暗号学的ハッシュ関数などの仕組みを使って、信頼を担保します。
コピー&ペーストを思えば分かると思いますが、デジタル空間では複製や成り済ましが簡単に行われます。金融の分野でこれをやられたらたまったモノではありませんが、そんな心配も昔の事になりそうです。買い物の記録・移動の記録・病気の経歴などなどあらゆるモノがデータとして記録され個人を特定出来るようになっています。
そうです。サイバー空間の金融やキャッシュレス社会を推進する上で、監視社会化はある意味免れないのです。国家の権威を脱する可能性だった技術が、皮肉にも国家に代わって大企業に権威を与えて新しい危険も生み出してしまうのです。
では、そもそも「国家がすべてを管理している体制なら?」逆に「国民にプライバシー意識もなく、監視体制を一定許容している国家なら?」そうです。そこに、中国で進むキャッシュレスやFinTechを読み解くカギがあるのです。
以下の資料を参考にしました。
P123 資本VSお金 お金は謎である、資本と同じでもない
- 作者: Condé Nast Japan (コンデナスト・ジャパン)
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