中国のノンポリ層にとっての「ウイグル」
今回の記事は、中国の少数民族問題の背景や衝突の原因については述べません。中国の少数民族の諸問題について解説している新書や学術書は沢山あるので、解説はそちらのプロの方々にお任せします。
ここでは、あくまで中国国内の一般人民がウイグル問題についてどう見ているか?をコンテンツ分析などを通して、肌感を理解できるように努めます。
中国ではどういうウイグルコンテンツが消費されているか
春節恒例の中国の紅白、「春晩」を見ていました。そこでこんなショートコントが放送されました。
5分12秒あたりから漢民族のオジサンが現れ、ウイグル族のオジサンとコントを繰り広げます。この漢民族のオジサンは鉄道建設員で、このコントは昨今進んでいる経済ベルト建設と民族団結のプロパガンダです。
ここで昨年の春晩も見てみましょう。
ここでは、ウイグル、チベット、モンゴル、壮族の民族音楽のパフォーマンスのあと、漢語で「我らは中華民族の一員で、この祖国に抱かれて生きている」という趣旨を歌います。
このVTRは新疆の美人ダンサーが夢を追って都会に出てくるという内容です。
中央民族大学や各研究機関が一応、それぞれの少数民族文化の保護(はく製化?)をしています。日本の巷で言われる「民族浄化」というのは少し違います。
ただ、昨今の新疆情勢や少数民族問題が意識されていないか?というと違っていて、一応その問題点に迫ろうともしています。
新疆人(ここでは新疆少数民族の意味)には部屋を貸してくれないと差別を語る様子
https://www.youtube.com/watch?v=LzVM0Trybh4
このVTRではフェニックステレビの少数民族問題に関するシンポジウムのシーンから始まり、北京に住んでいるウイグル族の方々にインタビューをしながら、比較的マシだった時期の情勢から昨今の険悪な情勢について、そのグラデーションを浮き上がらせています。
また少し前の出来事ですが、イリハム・トフティーさんが当局に拘束されたときは漢民族のインテリ層も声を上げました。
厳しい現実
ウイグルを始めとした少数民族問題に様々なグラデーションがあるのは間違いないですが、厳しい現実も間違いありません。
下のツイートは、ウイグル族成年が「春晩のパフォーマンスに対して、アレは漢民族による偏見で、ウイグル族だからって毎日、羊を食べて踊っているわけじゃない」という呟きを研究者の方が拾ったモノです。
Uyghur netizens take offense to stereotypical representations of their culture on display at this year's Spring Festival Gala pic.twitter.com/X0rK1SxRaC
— Timothy Grose (@GroseTimothy) 2017年1月28日
ラビア・カーディルに寄せられたヘイト書き込み。
「ラビアはウリを売っていたのに何であんな短期間で富豪になれたんだ?しかも、彼女は政府の一人っ子政策を非難しているが、自分は子供は沢山いるなんておかしいだろ?彼女は口から出まかせをいって新疆で騒乱を起こし、一般市民も巻き込んだテロを起こしただろ?」
「共産党が何やったかは知らないが、ラビアは新疆に住んでいる一般の漢民族を殺しまくった事件の首謀者だろ?文句があるなら中南海に行けばいいだろ?この畜生め」
低評価の圧倒的な数。
ウイグルしかりチベットしかり、中国の少数民族情勢は加速度的に悪化しています。様々な要素も重なりその解決は一筋縄ではいきません。変に地雷を踏むと、自分が当局に拘束されたりするだけでなく支援している少数民族の方々にも迷惑が掛かってしまいます。地味な作業ではありますがこの問題に対して興味関心ある人は、書を漁り現地に足を運び、言葉を身に着け、情勢の濃淡やグラデーションを読解するしかありません。
南京大虐殺は中国でどのように表現されているか?
アパホテルの件が大炎上中ですが
アパホテルで南京事件を否定している本が問題視され炎上騒ぎになっています。南京事件はたびたび日中の間で論争になり外交問題に発展します。本稿では、南京事件そのものや論争史よりも中国国内でどのようなコンテンツでどんな表現で南京事件が表現されているか?を具体的に探っていきたいと思います。
中国人はどのように「日本人が南京大虐殺を見ている」と思っているか?という分析
以下の文章は、中国の中でもリベラルに近い論調の雑誌『炎黄春秋』に3年前に掲載された文章です。
刘柠という方が書かれた文章で、日本国内の政治体制の歩み、冷戦時の右派左派の対立、日本経済と中国経済の逆転、などを織り込みながら南京事件論争史を振り返っています。この中では、日本国内の完全否定派・虐殺はあったが数字は誇張派なども紹介されています。
少し前になりますが、こんな本も日本で出されました。
この中では、人民教育出版社の「中国歴史」の中にある活動で「日本の中学生に南京大虐殺を忘れないで」というテーマで手紙を書くという事が紹介されています。そこには「日本右翼分子と軍国主義を人民と区別する」という注意書きがされています。
以下のVTRは南京に現在住んでいる日本人たちの声を紹介しています。
中国には完全な表現の自由はありませんが、日本人を一方的に悪く描く抗日プロパガンダしか流れていないわけではなく、日本社会の思想潮流の分析や現在に生きる一般日本人に焦点を当てるモノもあります。
南京事件を描く
残念ながら南京大虐殺は事実かつ当時の中国の首都なので、日本人がどう足掻いてもシンボリックな事件である事に変わりはありません。なので、様々な映画も作られています。
特に上の「南京!南京!」は加害者である日本軍人の葛藤や、日本人慰安婦の存在、中国軍の不意打ちも盛り込みながら南京戦に迫った事で、中国国内でも論争を呼びヒットしました。下の「ラーベの日記」はジョン・ラーベを主人公に南京戦を描きます。しかし、この映画は少々演出が強すぎると個人的に思います。
今回は主に2000年代のコンテンツを引っ張ってきましたが、これ以前にも様々な描かれ方があります。中国という環境を考えると、純粋にそれを中国人民の民意の表象と言い難いかもしれません。コンテンツの公開年月日やその当時の日中関係なども参考にしながら考えるべきかもしれません。
これから、中国と本格的に向き合っていく人が読むべき本とか 歴史・市民社会編
以前の記事で、今年からアジア・ユーラシア地域に関わっていく人のために様々なモノ推薦しましたが、本稿ではもっと絞って、中国や朝鮮半島情勢に関わっていく・関わっていきたい人が読むべき本や見るべき映画を挙げていきます。
対中感情の推移、過去の先輩たちから学ぶ。
これから、中国に関わっていく人はある事を肝に銘じる必要があります。それは、「日本人が一番嫌っている国に関わろうとする」という事です。そして、いつかどこかで中国の反日デモしかり日本の反中感情しかり政治的動乱に巻き込まれ、そこで挟み撃ちにされる経験をする可能性が高いという事はキモに銘じて下さい。なので、日本の対中感情の推移や、中国側の反日感情などのロジックは頭に入れる必要があります。これは余計なトラブルから身を守るためにもやってください。そこで以下の書籍が役に立つと思います。
和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)
- 作者: 安田峰俊
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: 文庫
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これらの書籍には、日中関係や対中感情を論じようとした場合、第二次世界大戦の即物的な戦争行為にのみに焦点が集まる傾向がありますが、上にあげた書籍群は、日本人の中国に対する価値観をより長いスパンかつ、幅広い分野から切り込みながら分析しています。
また以下の書は日本のアジア主義者とアジア各国の革命闘士たちの繋がりを克明に浮き出してくれるモノで、中国専門というわけではありませんが、明治初期の日本と中国などの繋がりについて知るための本として目を通す価値はあります。
歴史は中国を理解するための最大の武器
やはりここでも歴史は大切な教養です。中国史に関しては三国志などサブカルチャーでも浸透しています。さらにそこに分厚い学術書などを組み合わせることで理解を促す事が出来ると思います。
神話から歴史へ(神話時代 夏王朝) (中国の歴史 全12巻)
- 作者: 宮本一夫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/03/16
- メディア: 単行本
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以上のようなモノを使ってみて下さい。
日本人が「中国の世界観」や「中華文明」の理解しにくい点で、中国を理解するのに困るのは中国史は大きい遷都を何回も経験した事と異民族支配を受けた事にあります。なので、適度に「モンゴル中心史観」や「満州中心史観」のようなモノを摂取しながら、立体的に見る必要があります。以下のような本もあるので色々と漁ってみて下さい。
ここまで主に古代からの通史ですが、中国近現代史を理解するならやはり、毛沢東と鄧小平に関するモノは外せません。
この漫画は中国建国までの毛沢東を描きます。この漫画は1971年に発表されたのが元なので、まだ文革の実態なども把握できていないためかなり美化はされています。なので、日本の1970年代の中国観の読み解きのための資料としても使えると思います。
- 作者: ユンチアン,J・ハリデイ,土屋京子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2005/11/17
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こちらも重たくて分厚いモノ以外にも新書や漫画でも読めるモノがあるので、漁ってみて下さい。
中国と闘うモノたちの記録
改革開放以降、経済成長やオリンピックの開催などで市民社会や公民権の目覚めは中国でもあります。昨今の習近平体制では様々なNGOやNPOが圧力を受けていますが、それでも内外で闘う人たちが存在しています。
ウイグルの母 ラビア・カーディル自伝 中国に一番憎まれている女性
- 作者: ラビアカーディル,アレクサンドラカヴェーリウス,水谷尚子,熊河浩
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2009/10/15
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中国を追われたウイグル人―亡命者が語る政治弾圧 (文春新書)
- 作者: 水谷尚子
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2007/10
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チベットわが祖国―ダライ・ラマ自叙伝 (中公文庫BIBLIO20世紀)
- 作者: ダライラマ,H.H.The Dalai Lama,木村肥佐生
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/11
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他にも中国が抱える問題はどれも重大で目が回りそうになりますが、環境や貧困、表現の自由などにも闘いを挑みにいっている人たちはいます。
中国メディアの現場は何を伝えようとしているか: 女性キャスターの苦悩と挑戦
- 作者: 柴静,鈴木将久,河村昌子,杉村安幾子
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2014/04/26
- メディア: 単行本
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この方はPM2,5の問題を告発する動画を流し論争を呼びました
中国の市民社会については以下のようなモノもあります。
また、中村大樹さんという方が中心となって中国の独立映画(検閲をうけていない映画)を日本で流す試みもされています。
中国の市民社会や反体制人士について扱った資料も沢山あります。ここではその一部を紹介しました。
これから、アジア・ユーラシア地域に関わっていく人が最低限見るべき本とか映画とか。
これからアジア・ユーラシア地域に関わろうとするヒトへ
新年ですね。これから心機一転もかねて日本を離れ、アジア・ユーラシア地域に関わっていこう!と意気込んでいる方や、嫌だけど仕事上仕方なくアジア・ユーラシア地域に携わっていく方、そんな方々に、アジア・ユーラシアに関わっていくならこれくらいは最低限見て欲しい、お勧めの本や映画を本稿ではまとめて紹介したいと思います。
歴史・文化・宗教など
人文社会系の基礎知識を持ちましょう
基本的な人文社会系の知識は持ちましょう。その為に一番効率がよく浅く広い地域の知識を網羅できるのは教科書です。”ゆとり教育”や”歴史問題”など様々な問題が指摘されますが、日本の教科書と資料集はかなりクオリティーが高いです。古いモノは使わないでください(ソ連がまだあったり、そういうのは止めて下さい)。昨今は”学びブーム”もあって、以下のようなモノも出ています。高校の世界史Bや日本史Bの新しめの教科書を買って、端から端までしゃぶりつくすように読むだけでも違うと思います。
歴史やその国の概要を浅く広くつかみたい場合は以下の書籍シリーズもおススメです。
- 作者: ウィリアム・H.マクニール,William H. McNeill,増田義郎,佐々木昭夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2008/01/25
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特定の一国や一地域について詳しく知りたい方は、目的に応じて色々と漁ってみて下さい。
宗教に関するモノやマナー
昨今はイスラム市場を狙いに行く動きもあり、この手の宗教やスピリチャルな分野に対する理解を促すモノを多く出ています。仏教・イスラム・キリスト・ユダヤ。その他北東アジア圏のマナーの根底にある儒教や道教などの哲学思想などについても、基本的な知識や傾向などは頭に入れておくべきです。
これらの伝統的な宗教概念や哲学思想を理解するための書も沢山出ていますが、ここではあえて、それらの創始者たちの伝記や伝説を基にした映像作品をお勧めしたいと思います。イスラムは偶像崇拝の禁止から難しいですが、仏教や儒教などは漫画や映像作品にもありますし色々と見てみて下さい。
映像などを通すことで、その思想を作り上げた当事者たちの背景についてイメージしやすくなると思います。無論、映像作品ですので娯楽作品としての”演出”は入っています。そこは、書を使ってバイアスを修整してください。映像と書籍をバランス良く使う事で色々と分かりやすくなると思います。
現代社会やテクノロジーに関して
世界2位と3位の経済大国が並び、サムスンやホンハイといった世界にも類を見ないハイテク産業の集積地となった北東アジア地域や、世界経済の成長センターになった東南アジアや南アジア諸地域は、様々な分野の専門家がテストケースとして観測しています。なのでアジア・ユーラシア情勢の専門書でなくとも、アジア・ユーラシア地域に関する事象を拾っている書は様々なモノがあるのです。以下に挙げる書もそういったモノです。
未来化する社会 世界72億人のパラダイムシフトが始まった (ハーパーコリンズ・ノンフィクション)
- 作者: アレックロス,依田光江
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日: 2016/04/28
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- 作者: エリック・シュミット,ジャレッド・コーエン,櫻井祐子
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2014/02/21
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アジア諸地域も発展を続け、先進国と似たような問題を抱え始めています。少子高齢化や移動コストや産業集積による地域の変化を追っていきたい方は以下の書がおススメです。
老いてゆくアジア―繁栄の構図が変わるとき (中公新書 1914)
- 作者: 大泉啓一郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 新書
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海洋アジアvs.大陸アジア:日本の国家戦略を考える (セミナー・知を究める)
- 作者: 白石隆
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2016/02/10
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しかし、アジア・ユーラシア諸地域の変化は本当に激しいので、もしかしたらここで紹介した書などが既に”古典”レベルの出来事になっているかもしれません。ですので、参考程度にしておいた方がいいかもしれません。そこは日々の新聞や雑誌をチェックする事でカヴァーする必要があると思います。
お勧めの雑誌は以下のようなモノがあります。
他にも「フォーリン・アフェアーズレポート」や「中央公論」「文藝春秋」などもチェックするといいと思います。無論、これらすべてにお金をかけるのも大変なので、書店での立ち読みや図書館。Webで公開されている無料記事などを織り交ぜて上手くやっていきましょう。
他にもこのようなモノがあります。アメリカのプレゼンテーションイベントの「TED」です。アジア・ユーラシア地域について様々なプレゼンがあるので参考にしてみて下さい。英語が苦手でも日本語字幕やスクリプトも無料で公開されていたりするので大丈夫です。
これから本格的にアジア・ユーラシア事情に足を踏み入れる方は是非参考にしてみて下さい。
中国のパクリと闘う その2 ”良いパクリ”と”悪いパクリ”
その1では、パクリを前提にしてそのパクリを上手く”いなす”手段を音楽業界の実例と、「海賊版のパラドックス」について言及しました。今回はモノづくりとオープンイノベーションについて見ていきます。
”良いパクリ”と”悪いパクリ”
昨今のITの発達などで、様々なモノが無料で公開されています。無論、そうなるとパクリや無断流用なども横行します。ある意味では、インターネットに無料で公開するという事はパクられるリスクも上がります。
オープンソース・ハードウェアの世界で、それは予想されたことであり、推奨されてもいます。流通コストのかからないソフトウェアは無料です。製造にかなりのコストがかかるハードウェアは、品質やサポートや供給量を確保します。ビジネスを健全に拡大するために、必要最低限の価格をつけなければいけませんが、デザインは無料で公開されます。知的財産は全て公開されるので、コミュニティーはそれを利用し、改善し、自分の好きに変える事ができます。クローン品が作られる可能性は、このモデルの中にあらかじめ組み込まれています。オープンソース・ライセンスは、それを許可するものです。もちろん、理想をいえば、コピー品が市場のニーズに応じて、製品に変更や改善を加えることが望ましいです。それこそ、オープンソースが推奨するイノベーションの一形態です。しかし、クローン品を安く売るだけでも構わいません。それは市場が判断してくれます。
ただ、なぜパクるか?なぜ真似をするか?という事はよく考えるべきです。
その理由は様々なことが考えられますが、好きでファンだからというのは大きいです。他にも、その会社の製品が欲しいけど高くて買えないから廉価版が必要というニーズがあるからという事もあります。もちろん、いい加減な気持ちで何も考えずにパクっている連中も存在します。パクっている連中の態度の他にも、連中が持っている技術も”良いパクリ”と”悪いパクリ”を見分ける指標になると思います。最近では、中国も技術力が上がって、パクリだけどそれなりにクオリティーが高いモノも出現しつつあります。これらを単純に敵視するのは少々、勿体無い気がします。
パクリが本物を救う
ここからはクリスアンダーソン氏の著作『メイカーズ』に紹介された実例を引用しながら見ていきましょう。
2010年の終わり頃、アルデュパイロット・メガという製品の中国製の模造品が、タオバオやイーベイやそのほかのサイトで販売されていることが分かりました。しかし、模造品は高品質で機能も申し訳ありません。しかも、英語の説明書といくつかのソフトウェアが中国語に翻訳されていました。ただ、会社は模造品にたいして何もしませんでした。
またアルドゥイーノのという他の会社のアイコン基板にも、まったく同じ状況が起きていました。中国製のクローン品が多く出回っていたです。品質の劣るクローン品もありましたが、品質が良い場合でも、殆どのユーザーは本家のアルドゥイーノ製品とその開発者を支持し続けました。今日、クローン品は市場でほんの小さなシェアを占めるだけで、その大部分は中国などの価格に敏感な市場です。また、実のところ、低価格市場に参入することもまたイノベーションの一形態で、責められるべきではありません。クリス・アンダーソンはこの展開をうれしく受け止めました。それには、四つの理由があります。
製品サイトのウィキが中国語に翻訳されて、より多くの人に読まれるようになった事は素晴らしい。
クローン製品は成功の証だーそれを欲しがっている人がいるからこそ、クローン品が作られる。
競争は良いことだ。
クローン品が、本物のイノベーションと改善につながる事もある。われわれのライセンスのもとでは、派生的なデザインもオープンソースにする事が求められている。中国チームがより良いデザインを考えてくれれば、手間が省ける。今後は僕らが彼らのデザインしたものを生産し、マニュアルを英語に翻訳し、中国以外の市場で売る事ができる。
上記のような事を、アルデュパイロット・メガが模造した中国の業者に送ったらすぐに「ヘイジー」というメンバーが、名乗り出ました。彼は、模造品を作ったチームの一員で、中国語へのマニュアル翻訳を担当していると名乗り出ました。その後、彼の翻訳を公式にマニュアルに移植し、マニュアルは英語と中国語対応になりました。また、ヘイジーは様々なバグを取り除き始めた。そしてヘイジーは、チームの公式メンバーとなりました。
はじめ、クローン品の事を耳にしたとき、会社の中には、これをよくありがちな中国人によるあからさまな知的財産の侵害と決めつけ、いつ訴えを起こすのかと聞いてくるメンバーもいました。しかし、これがオープンソース・ライセンスのもとで許可され、推奨されてさえいる「派生的な」デザインであって、「侵害」ではないと考えると風向きが変わったのです。
中国チームを悪者と決めつけず、彼らをコミュニティーの一員として扱ったことで、彼らもその期待通りに行動してくれました。ヘイジーは、僕たちの仕事を利用するだけでなく、自分から名乗り出てコミュニティにも貢献してくれました。これはもしかしたら奇跡的な一例かもしれません。しかし、「侵害者」の一部は、本物のために働いている人もいます。彼らは会社の技術を使うだけでなく、みんなのためにその技術を改善しようと手助けしています。ヘイジーは会社の夢の実現のために手を貸してくれています。
つまり、
パクリにも良いモノと悪いモノがあり、しかも良いパクリを取り込むことで、悪いパクリを倒す事も不可能ではないのです。
以下が引用・参考資料です
- 作者: クリス・アンダーソン,関美和
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2012/10/23
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P47 P50~54
中国のパクリと闘う その1 ”パクリ”を往なす
相変わらず日本人をイラつかせる”中国のパクリ問題”
相変わらず、この手の問題はイタチごっこで、日本社会では中国と言えば”パクリ”と言っても過言ではありません。
しかし、”パクリ”はかつての台湾でもありましたし、新興国では多かれ少なかれパクリは存在します。そこで、本稿では中国人がバカだからパクるというレイシスト的な視点を避けつつ、パクリを新興国に共通する問題として捉えながら中国のパクリとも闘う手段を追及してみたいと思います。
パクリは恥だが役に立つ
儒教文化圏では師匠の教えを真似する所から学びを始めるという傾向が強いです。なので、欧米圏に比べると著作権の考えが定着しにくいと言われているようです。実をいうと日本も粗悪なパクリを行っていた時期もありました。
また最初は”パクリ”と言われていた会社の製品が段々とブラッシュアップされて独自性を獲得していったパターンもあります。サムスンやシャオミーなどはそのパターンですね。
他にも広義のパクリや真似事という意味では、You Tubeなどの「踊ってみた」「歌ってみた」コンテンツもありますね。カヴァーと言った方がいいかもしれません。そこから徐々に実力をつけて、アーティストとしての独自色を獲得していった人もいますね。
つまり、パクリは効率的に実力を蓄えるにはとても役に立つのです。
”パクリ”を往なす
消費者や新規事業を起こそうとする人にとっては安くてそこそこのモノが手に入るパクリはある意味ありがたいですが、ブランドをすでに確立し販売している企業にとっては損害以外の何物でもありません。特に中国は上にも挙げた理由の他に、文革の影響でモラルが崩壊していたり、国が人治主義だったり、厄介です。しかし、昨今のITの発達やオープンイノベーションによって、パクリさえも上手くコントロールして付き合う事も不可能ではなくなってきています。
例えば音楽で考えてみましょう。不正が横行している中国では、不正コピーは、自分たちの作品をもっとも多くの潜在的ファンに届けるための、コストのかからないマーケティング手法だと考えることで、不正と上手く付き合う事を選びました。
香香(シャンシャン)というアーティストは「猪之歌」という歌を大ヒットさせました。そのセカンドアルバムは400万近く売れましたが、問題はそのほとんどが海賊版だった事です。しかし、それはあくまでレコード会社にとって問題だったのであり、本人はそれで構わないと思っていました。有名になったことでCMなどに出演し、コンサートツアーも集客ができ、それで手に入るお金にも満足しているようです。
だからといってレコード会社が儲かる事が出来ないか?というとそうではありません。様々な方法で利益を出す試みが行われています。イギリス人のエド・ピートは、中国で音楽を商売にする別の方法を開拓しました。彼は、新人のアーティストと契約する一方で、月決めの料金で会社が抱えるアーティスト全員のスポンサーになってくれる企業を見つけます。このスポンサーこそが会社に利益を落とすのです。
エド達の会社は、楽曲をなるべく安くレコーディングをします。スポンサーのついたショーで観客を前にライブ・レコーディングをすることもあれば、安いスタジオや稽古場でレコーディングする事もあります。そういったライブや録音風景などすべてを録画して、それをもとにスポンサー名を入れた様々なビデオを作る。どの楽曲も会社のウェブサイトで発表します。それぞれのMP3データの無料ダウンロードやアルバム全体のダウンロード、そしてクレジットやアートワークという情報などにリンクが張られます。会社は通常のライブイベントを企画します。
ジーンズや飲料水のメーカーなどのスポンサー企業が出資するのは、会社に対してであってアーティストにではありません。これはインディーズとしての信頼性を損なわせないためです。出資された金額の一部は、サイトから曲がダウンロードされた回数に応じてアーティストに配分されます。
つまり、音楽は無料で提供してアーティストのマーケティングの道具にし、会社はCMの話やスポンサーを見つけるなど従来とは違う形で収益をはかるのです。
また、海外では「海賊版のパラドックス」という現象にも注目が集まっています。これはパクリなどによってコモディティ化が成されイノベーションを促したり、偽物が本物を助けている側面あるという理論です。
この理論は、ファッション業界の経済のジレンマから生まれています。消費者は今年の流行を気に入らなければ業界に収益は出ません。その上、すぐにそれに不満を持ち、翌年のデザインを買いたいと思う必要があります。技術品と違って、アパレルメーカーは翌年の製品が機能的にすぐれているとは主張できません。見た目が違うだけです。そこで、今年のデザインに対する消費者の熱を冷まさせる何か別の理由が必要となります。その解決策こそ偽物が広く出まわることで、高級だったデザインが大衆向けのコモディティになることです。そうするとそのデザインの神秘性は失われ、目の肥えた消費者は何か特権的で新しいものを探さなければならなくなります。
今回は一端、ここまでにします。
次回はモノづくりの分野で中国のパクリを上手く取り込む方法を資料を用いて紹介したいと思います。
以下が引用・参考資料です
- 作者: クリス・アンダーソン,小林弘人,高橋則明
- 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
- 発売日: 2009/11/21
- メディア: ハードカバー
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P264~P272
- 作者: カル・ラウスティアラ,クリストファー・スプリグマン,山田奨治(解説),山形浩生,森本正史
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2015/11/26
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北朝鮮の内情に迫ってみる。
北朝鮮の内情に迫ってみる
最近、あるVTRを見ました。それは韓国に亡命した北朝鮮人が北朝鮮について語っているものです。VTRは以下より。字幕も日本語設定にできます。
そこでは「北朝鮮でも市場経済が導入され始めている事」や「昔と今の脱北者の意識の違い」などが語られていてとても興味深かったです。そこで、できる範囲で統計や西側メディアの資料を使って北朝鮮の内情について迫ってみたいと思います。
北朝鮮経済は一応持ち直している
下のデータは北朝鮮の乳幼児死亡率の推移を反映した統計です。乳幼児死亡率は一番ねつ造しにくくその社会の内情を計り知るには適した統計と言われています。これを見ると分かるのですが、90年代のソ連崩壊とそれに伴う大飢饉以降は着実かつ確実に乳幼児の死亡率が減っている事が分かると思います。
North Korea - Infant mortality rate - Historical Data Graphs per Year
しかし08年から2011年にかけて再び急上昇しています。この時期は金正日の体調不良説がささやかれ、経済政策で大きな失策を犯したせいで治安維持部隊と民衆の衝突が北朝鮮各地で発生していたようです。(ウィキペディア 金正日の項参照)
また、こちらの資料では北朝鮮でもITが入ってきている事が伺えます。中国経由で入ったものでしょう。以下のブログは平壌で働いているインドネシア人のモノです。どうやら北朝鮮内部から各種SNSを更新しているようです。その彼が撮影している平壌の様子を見ると色々なモノは一応入ってきているようです。
以上の事からも北朝鮮が以前に比べて「食べられる国」になっている事は間違いなさそうです。
開かれた北朝鮮?
上で北朝鮮からSNSを更新している外国人を紹介しましたが、どうやら欧米の人にとって北朝鮮は「イロモノ旅行先」「マニアックスポット」として認識されているような印象があります。英語で「North Korea trip」と検索してみると北朝鮮を訪れた外国人の思い出ビデオのようなモノが見られたりします。
また平壌には日本語や諸外国語を学ぶ大学生もいます。ここから察するに、以前に比べてある程度は外国資本などが入り、北朝鮮の人たちもある程度は外国の事を知り開放的になっているのではないか?という予測が立ちます。
建国神話をねつ造中???
そうなってくると「社会主義革命」等々のイデオロギーが怪しくなって統治の正当性を欠きます。そこで必要になってくるのが建国神話です。以下のVTRの46分あたりからテドンガンから古代文明の遺跡が見つかり、それが黄河文明に匹敵する高度な文明で北朝鮮が国際学会に提出しようとして、ガン無視を食らったという話が紹介されています。もしかしたらこれを自らの建国神話やアイデンティティーに添えようとしているのかと予測されます。
中国が改革開放を始めた時に”中華民族アイデンティティー”を強調し始めたのを模倣しているのかもしれません。
結論としてどうやら、北朝鮮も北朝鮮で色々と変化や発展があるようです。これらの変化が果たして経済制裁などによる外部圧力によるものなのか。それとも北朝鮮指導部も自力で韓国とは違うやり方で自国民をなるべく食べさせる方向に舵を切ったのか。そこは分かりません。しかし、上の事から日本人や日本のメディア人に
貴方たちは北朝鮮への経済制裁の効果を90年代のソ連崩壊の頃を前提にしていないか?
という事は問えるのではないでしょうか。
以下はその他参考資料です。
北朝鮮輸入先データビジュアライズ
以下は過去の記事です
少し前のVTRですがこんな報道などもありました。