『枢纽 3000年的中国』を読む
新たなる歴史叙述への挑戦
今年の一月に出版され中国国内で話題になっている本があります。それが、
『枢纽 3000年的中国』です。
この本の題を日本語に訳すると『歴史のハブターミナル 3000年の中国史』になると思います。
タイトルの「3000年の中国史」という部分を見て、感性の良い方はすでに何か感じれたと思います。中国史は一応、現時点の常識では「5000年の歴史」と言われています。日本ではCMの影響で「4000年の歴史」がポピュラーになっています。この本の筆者の施展(shizhan)さんは今までとは異なる歴史叙述に挑戦しようとしている事がタイトルからも何となく伺えると思います。
筆者の施展さんは純粋な歴史学者というわけではありません。実をいうと一番最初の学位は北京航空航天大学管理学部の工学学士からキャリアを始めています。この大学は名前からも察せると思いますが、理系大学で中国の宇宙飛行士を育成する学校です。その後、中国社会科学院、北京大学、ソルボンヌ大学のフランス革命研究所とキャリアを積みます。本書でも、筆者の理系チックな思考法や科学知識が導入されています。本書の大きな特徴の一つとして、
文系・理系を股にかけたリベラルアーツ、超域文化科学的視点を用いた歴史叙述です。
大漢民族中心史観・中原中心史観を超えろ!
習近平政権以降、愛国主義が高まっています。漢服を復興させる運動や国学ブームなどです。確かにそれらは「中国を構成する大事な要素」ですがそれらはあくまで「中国の文化の一部」です。「中華民族の偉大なる復興」は実質的に「大漢民族中心主義」に履き違えられました。そして、その文明の中心である中原から中原中心史観とも言われています。
漢民族中心史観だとどうしても遊牧民は一方的に「敵」になります。中国の愛国の代表、南宋の岳飛が残した「満江紅」はそれが色濃く反映されています。
赤字の部分、中々グロテスクです
しかし、筆者はVTR6分20秒あたりからこう主張します。
「中国史とはほぼ中原史である。我々の中高の歴史教科書に中原以外の少数民族はあまり出てこない。出てくる時は悪人として出てくる」そしてこうも続けます
「辺境や少数民族は中国史としてではなくソトの存在である。しかし、そうであるなら現在、中国領域内の新疆やチベットを統治する資格は中国にあるのか?」
現在の中国ではなかなかセンシティブな議論だと思います。
以下はスクリプトです。とビリビリ動画です
https://www.bilibili.com/video/av23443194/
ちなみに筆者の主張を要約すると以下のようになると思います。
「中原帝国の安定統治は草原帝国の安定統治あっての事であり、ユーラシア大陸は生態システム的多元秩序によって歴史を紡いできた」
※こちらのVTR 「辺境から中国を発見する」は『枢纽 3000年的中国』の前半部分の議論のコアになります
中国の経済発展は西側との相互関係によってもたらされた
本書はさらに現代の中国の経済発展に関する議論までカヴァーします。中国の発展は「安価な労働力」「膨大な人口と市場」と説明されることが多いですが、筆者はそれに少しばかり異を唱えます。
筆者は、西側による様々な技術革新がちょうど中国の開放期と重なり、それが同時に中国に流入した事もまた大きな要因の一つと主張します。近代化にはあらゆる分野(生産・物流・管理・販売etc)の効率化が必要になります。その効率化を推し進めたのは西側の技術革新です。
※インターネットの中国への流入は日本とさほど大きな差はありません。この部分は
山谷剛史著『中国のインターネット史』を参考に。
筆者は近現代以降もまた、中国の発展は西側先進国とその周辺にいる、アジア四小龍などの相互の働きによる独特なサークルシステム(双循環システム的秩序)によるものと説きます。
本書は非常にボリュームのある本です。しかしGゼロワールドを生きる私たちにある視座と勇気を与えるでしょう。ぜひ挑戦してみてください。
下記のVTRは『枢纽 3000年的中国』の予習ができるVTRです。
本を読む時間のない方は以下だけでも見てみてください。
本書様々な専門家からの書評です