中国と日本をめぐる社会とか自由に関する皮肉な話。
日本って“ジユウ”なの?
中国を経験した日本人どうしで飲み会を開いたり、インターネットで会話すると、こんな話題になる事が多いです。
「なんか、日本って自由なんだけど自由じゃない感じ?中国は自由じゃないんだけど自由って感じ」
一般的に自由の無い一党独裁国家の中国で、なぜか日本社会にない不思議な自由を味わう経験する事が多々あるようです。雲南省の辺境のホータンプー村の日本人は
「中国社会や政治は自由(リベラル)じゃないんだけど、一般生活では自由(フリーダム)で、日本よりも中国の方が気楽」と言ったような事を述べていたりします。またポーランドがソ連影響下にあった時代に日本を訪れた、レフ・ワレサは「日本は社会主義が成功した唯一の例だ」と述べていたりしています。昨今では自民党の改憲草案がとても中国的と言いますか前近代的であることが指摘されたりしています。以下の私のブログ記事を参考にしてみて下さい。http://syuturumu.hatenablog.com/entries/2016/10/07
さて、この不気味な状態を考察する際にいくつかのキーワードが考え方がヒントになると思います。それは「中国化する日本」です。
中華文明の端・太平洋文明の端
私たちは一般的に歴史や現象を「近代化=西欧化・欧米化」で捉えるわけですが、「中国化する日本」とは前近代における先進文明、もしくは亜近代文明である「中国文明化」を意識しようというわけです。「中国化」と言いますと少々語弊が生じるので、言い方を変えますと「伝統的な儒教を基にした統治強化」と言ったほうがしっくりくるかもしれません。実をいうとこうした歴史観や日本社会勘は結構古くから存在します。最近でも以下のような本が出されました。
中国化する日本 増補版 日中「文明の衝突」一千年史 (文春文庫)
- 作者: 與那覇潤
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2014/04/10
- メディア: 文庫
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本書の内容を説明しますと、「近代は中国が既に中世までに実現し、日本の歴史は近代化=中国化とそうでない時期を一定のリズムで繰り返している」というモノです。
今の日本で「日本は中国と一衣帯水の隣国である」「日本は中国からずっとモノ事を学んできた」というのは少々勇気がいる事ですが、歴史の事実として日本は漢字を始め中国の古代文明を様々な形で吸収しました。嫌でも、無意識のレベルで日本人の思想や行動原理、政治思想に「中華文明」や「儒教文明」が組み込まれていると考えた方がいいようです。
しかし、日本は有色人種初の先進国として初めて近代化に成功しますが、そのキッカケがアメリカとの接触です。また、「菊と刀」によると日本の天皇崇拝には、ミクロネシアやポリネシアの太平洋の島国との共通性が見いだせるようです。つまり日本を考えるには、「中華文明の端としての日本」と「太平洋文明の端としての日本」をバランスよく考察しなくてはいけないと思います。
日本の官僚=儒教システム?
実をいうと、日本の官僚システムはとても儒教的と言われています。官僚が非常に実力主義で登用されます。そのルーツを明治維新にもとめる事が出来るようです。明治維新は「維新」の文字が示す通り「維」持と革「新」が混ざったような概念で、直接「革命」とは表せないような現象です。「Revolution」と完全なイコールで結べません。なぜでしょうか。
それは明治維新が「下からの近代化」ではなく、武士などのエリート階級が、欧米列強の脅威に対抗するために天皇や古いシステムを復古(維持)しながら、士農工商などの身分制の廃止や国語教育や近代軍隊など、国民国家に向けた諸改革を断行します。つまり、「尊王攘夷」日本民族を作り上げその伝統や連続性を守りながら外的圧力に対抗するために社会システムを革新するという、欧米先進国では見られないような形で近代化していきます。この天皇を維持する武家などのエリート層、彼らの教養は漢文や東洋思想です。「攘夷」という言葉は元々、中華世界を中心に見た時の野蛮人を表す概念です。さらに、これらの層は江戸時代の末期には行政管理を主に担っていました。西欧由来の概念を輸入するときもわざわざ漢字(Chinese character)を使って創造します。こうした事からも、日本の社会や政治を「脱亜入欧」「近代化=欧米化」の枠組みだけで考えては限界がある事は明らかだと思います。
実をいうと中国的な特徴というのは戦後の政治現象にも見られます。国民に選ばれた政治家よりも官僚や省庁の力が反映されやすかったり、党内の派閥争い(中国的にいうと権力闘争でしょうか?)や党派性が主に政治に影響を与えたりします。また、政治家も政治の手腕や思想などではなく「良い人っぽい」「キャラクター」が立っているといった、道徳や人情で支持される傾向があります。これは中国政治の「徳治」に似た節があります。タレント議員の多さや、小泉政権や自民党政権を考えてみればあながち外れていないと思います。
(なぜ”失われた20年”を上手く脱却できていない政党がここまで粘り強く支持されるかもここにヒントがあるような気がします。ただ旧民主党の悲惨なまでの統治能力の無さなどを思えば、自民党が支持されるのも仕方ない気がしますが)
日本は中国と同じではありません。基本的に自由な国で、人権も保障されます。しかし、どうも、皮肉にも同じような所があるのも事実だと思います。お互いに自分は相手と違う!と主張するほど相手の存在が際立つところも共通していると思います。
参考書籍
和僑 農民、やくざ、風俗嬢。中国の夕闇に住む日本人 (角川文庫)
- 作者: 安田峰俊
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
- 発売日: 2016/04/23
- メディア: 文庫
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冒頭のホータンプー村の話はこの本にあります。
日本社会の奇妙な特質についての考察は様々な本がありますが、主に以下の二冊を参考にしました。
- 作者: ビルエモット,伏見威蕃
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2008/06/06
- メディア: ハードカバー
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第4章 日本ーパワフル、脆弱、老齢化
P114~118
中国が世界をリードするとき・上:西洋世界の終焉と新たなグローバル秩序の始まり
- 作者: マーティン・ジェイクス,松下幸子
- 出版社/メーカー: エヌティティ出版
- 発売日: 2014/03/25
- メディア: 単行本
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第3章 日本ー西洋ではない近代
P65~78
歴史に「亜近代」という区分を設定するべきだと提唱している