日本と中国をめぐる憲法に関する皮肉なお話。 9条の話じゃないよ♡
通常国会が始まりましたね
本国会で憲法改正に向けての議論がより加速化する事になりますが、「中国」に片足を入れながら生きている人間としてどうしても気になる事があります。それは
「自民党の憲法改正草案が現在の中華人民共和国憲法とかなり似ている」という点です。「そんな筈はない。日本は中国や北朝鮮の脅威に対抗するために憲法を変えるんだ!」「え?自民党の改憲って、自衛隊が国軍になって武装中立に近づくことじゃないの?」と思いの方は、以下から自民党の改憲草案の全文を見てみて下さい。
https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/130250_1.pdf
その前文で「自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚」するべきだという事が高らかにうたわれています。個別の条文を見ても、国民に一定の態度を要求している部分が現行憲法よりも格段に増加しています。また102条1項では現憲法では公務員のみが追っている憲法尊重義務を全国民が負う事になっているため、これらの「態度の要求」も法律により具体化されることで明確に憲法上の義務となり得る事が指摘されています。
一方の中華人民共和国憲法の条文を一度でもご覧になれば、それが国から国民に当てた義務規定のオンパレードとなっていることに気づくでしょう。
「和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する」
草案第24条には
「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という文章があります。
すでに多くの人が指摘しているように、「和を尊ぶべし」といった道徳観念を憲法の条文に書き込むことは。国家権力を制限し人権(個人としての権利)を保障する、という近代的な立憲主義の考え方と基本的に相容れません。むしろ、国家機関が国民の道徳規範に対して何らかの規定を行い、「人民が守るべき道徳的規範」を政治的キャンペーンの形で広く国民に示すという、中華人民共和国の政治手法を彷彿とさせるものです。実際のところ、
中華人民共和国憲法第49条3項には、「父母は、未成年の子女を扶養・教育する義務を負い、成年の子女は、父母を扶養・援助する義務を負う」と「家族が互いに助け合う」事を国民の義務とする条文が書き込まれています。
「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益および公の秩序に反してはならない」
そして第13条には
「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益および公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない」
と書かれ、国民の権利が、現行憲法のように「公共の福祉」ではなく、「公益」や「公の秩序」を優先すると明確に規定されています。
このような「私」的な権利に対する「公」の利益や秩序を優先させる秩序概念も、伝統中国から現在の共産党統治に受け継がれているものと極めて似通っています。実際のところ、
「中国公民は、その自由及び権利を行使するときには、国、社会及び集団の利益並び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」という自民党の憲法草案とほぼ同じ内容の条文が存在しています。
このように、自民党の改憲草案と現行の中華人民共和国憲法が似た性質を持っているという事をお分かりいただけたでしょうか。
因みに、憲法に関しする私の考えを大ざっぱに述べると、私は改憲派です。
憲法9条を変えて米軍依存を軽減し武装中立化を進める。中国やロシアや韓国などの防衛大学校の相互交流を進めながら、緊急連絡網やホットラインの多チャンネル化を進める。核武装に関しては断固反対。
労働者の権利の保護と個人権の尊重を強化する。
二重国籍やミックスルーツ、日本国内の異民族の存在を認める。
大ざっぱに説明するとこうした考えを持っています。
自民党政権は、「自由・民主・人権・法治」の価値観を共有する国と協力関係を深める“価値観外交”を進めています。無論、中国はこれらの価値観を共有する国ではありません。しかし、自民党の改憲草案が中国憲法と似たような価値観を持って設計されている事は上で述べました。この事実に関して、
「日本と中国が同じなわけがない」「愛国保守自民党が真の日本を取り戻す」と考えて憲法改憲に賛成している方は何を思うのでしょうか。また自民党はこの草案に対して「中国憲法と似ている部分がある」と質問された場合はどう返答するのでしょうか。色々と気になる所です。
文章は以下の書籍から引用しました
日本と中国、「脱近代」の誘惑 ――アジア的なものを再考する (homo viator)
- 作者: 梶谷懐
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2015/06/06
- メディア: 単行本
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引用箇所 P107~109
参考資料
中国と日本の憲法に関する議論は以下のような有識者も指摘しています。
鈴木 賢 「自民党草案の反立憲主義的性格について 中国憲法との比較の視点から」
http://www.juris.hokudai.ac.jp/ad/wp-content/uploads/sites/5/2016/01/booklet35_03.pdf
直近ではこうした議論もありました。
憲法に「家族」「緊急事態条項」追加の意図は―自民党草案を読む - Yahoo!ニュース
また、自民党の改憲草案に強く影響を与えているとされる日本会議に関しては以下の書籍があります。